「青の祓魔師」に登場する 時の王・サマエル はメフィスト・フェレスを名乗っています。好きな言葉は「時よ止まれ、お前は美しい」。どうやらゲーテの「ファウスト」が特にお気に入りのようです。どのような作品なのか少しみてみましょう。
ゲーテ「ファウスト」におけるメフィストフェレス
悪魔にして道化師
ドイツに実在した錬金術師ファウストの伝説を元に数々の作品が作られました。それらの作品にはしばしば道化師が登場します。シェイクスピアの昔から劇作品には道化役が登場し、皮肉や冗談で観客を笑わせるのがお決まりです。
道化役の笑いというのは、漫画で例えると「絶望先生」(久米田康治)の笑いに近い気がします。社会風刺や時事ネタ、あるあるネタにすごい角度から切り込んで論理をこねくり回してムチャクチャな事を断言して笑わせるわけです。
読者は笑いながらも作者の頭の良さに感心し、なんだか物事の本質の一端を垣間見た気分になっちゃったりする。そんなかんじの知的ユーモアです。
ゲーテは作品から道化師役を廃し、悪魔メフィストフェレスにその役割を背負わせました。ものすごく頭が良い悪魔。その素晴らしい弁舌で自説を展開し観客を感心させ欺くのです。
道化役を担う事で悪魔メフィストフェレスはより凄みと魅力を増しました。魅惑的な3枚舌。頭の良さに感心しているとコロッと騙されそうな怖さ。ユーモアに溢れ、どこか人間的でなんだか愛らしい。
青エクのサマエルにどこか似ています。彼が「メフィスト・フェレス」を名乗りピエロ服を着るのはゲーテの「ファウスト」へのオマージュのつもりなのかもしれません。
悪を欲して善を為す
ゲーテ版「ファウスト」における悪魔メフィストフェレスはすこし不思議な存在です。
神の僕としての悪魔。迷い、時に休息を必要とする人間たちのためにその存在が許されているようです。
メフィストフェレスはこのように自己紹介をします
「常に悪を欲して、しかも常に善を成す、あの力の部分です」
メフィストの与えた経験と苦しみは主人公ファウストの糧となり、ついには救済され彼の求めた真理に到達するのです。
単純な悪ではなく、ある種の主人公の導き手を演じるのも青エクのサマエルに通ずるものがありますね。
黒いムク犬
悪魔メフィストフェレスは「黒いムク犬」として登場し、ファウストの家に招き入れられます。
青エクのサマエルは白いムク犬によく変身しますね。ゲーテ版メフィストフェレスのコスプレのつもりかもしれません。
・・・しかし、ムク犬としてスコティッシュ・テリアを選んでしまうサマエルのセンス。さすがサマエルですわ。
そういえば原作のメフィストの選んだ犬種ってなんだったんだろうな、と思ってググってみたら・・・
有名な文学のドイツ語原典にあたって最も驚いたことのひとつ。ゲーテの『ファウスト』に出てくる悪魔メフィストフェレスは、黒いむく犬に変身するだが、その犬種はプードルだった。当時なのでトイ・プードルではなく沼地用の狩猟犬だったが、それでも原文を見たときの衝撃はハンパなかった。
— 健部伸明 (@mata_dor_jp) 2014年5月27日
はぁ?! プードル??!
もっと悪化してるわ!この二人まさかセンスも似ているのか・・・?
知識欲★
ゲーテ版「ファウスト」において、知識欲に振り回され人生の全てを犠牲にする憐れな老研究者の姿が長々と綴られます。
主人公ファウストは学問の探求に人生の全てを捧げ、それで何も得られなかったことに絶望しています。それでも尚諦めきれず、世界の真理を知りたいと渇望しのたうちまわっています。遂には禁忌の錬金術に手を出し、精霊たちを召喚し自身も神に近づこうとして失敗します。自殺しようとしますがそれも叶わず、自身に絶望しているところに悪魔メフィストフェレスが登場するのです。
2度目の訪問で契約をしたメフィスト。学問に絶望したファウストに替わって訪れた学生に対応します。各学問についてメフィスト流の講釈をすると感激した学生はサインを求めます。そこに書かれたのはこの言葉
汝ら神の如くなりて善悪を知るに至らん。
これは創世記の失楽園のエピソードを指しています
へびは女に言った、「あなたがたは決して死ぬことはないでしょう。
それを食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知る者となることを、神は知っておられるのです」。(創世記 3 : 3-4)
主なる神は言われた、「見よ、人はわれわれのひとりのようになり、善悪を知るものとなった。彼は手を伸べ、命の木からも取って食べ、永久に生きるかも知れない」。
(創世記 3:22)
この古語と俺の叔母の蛇の言うとおりにすると良いといい、メフィストフェレスは笑います。彼は失楽園の蛇の親戚なんですね。
知識を渇望し神をも背き転落していくファウストと、失楽園の知恵の実を語るメフィストフェレス。
「ファウスト」はドイツを代表する文豪ゲーテが20代から82歳の死の直前まで書き続けた大作です。その背景が苦悩するファウストのセリフの一つ一つにより深い味わいと重みを与えています。
・・・こういうの絶対、サマエルが好きそうなんですよね。知識を求めて苦悩する人間とか大好物じゃないですか。
服装センス★
2回目の訪問においてメフィストフェレスは貴公子の格好をしてきます。
こちらも、あなたのふさぎの虫を追い払ってあげるため、貴公子というみなりでやってきました。
赤い、金の縁取りをした着物、地の厚い絹のマント、帽子には鳥の羽をさし、長い尖った剣を吊ってね。
ファウストの舞台は 15-16世紀のドイツです。どのような衣装なのかと調べていて良いサイトを見つけました。
特徴を見ていると・・・チューダー朝前半が似ていますね。特に右から二番目の赤い服がよく一致しているようです。
あれ・・・ これ・・・
まさか、青エクのメフィストの着ている服って貴族服だったの??
ええええ???
調べたところ、あのかぼちゃパンツは オー・ド・ショース/トランク・ホーズ と呼ばれている服で16世紀から17世紀にかけて広くヨーロッパで流行していたそうな・・・
ひょっとして、サマエルって永く生きるうちにファッションセンスが古くなっちゃった人なんです??
ピエロ服とか言ってごめん・・・
16世紀の皆さんと比べると青エクのメフィストの方がずっと地味です。シルクハットは19世紀で、上着は現代に合わせてて、ファッションの流行についていこうとしている努力は見える?(気がする)(・・・ほんとか?)
ちなみに チューダー朝後半 になるとファッションの流行はこのように変ります:
あああーーこれも見たことある!
青の祓魔師アニメ1期 最終話でメフィストが着てたやつーー!
・・・あれも貴族服だったのか。頭にあった触覚みたいのは鳥の羽飾りだったんですね。
長くなってしまったので今日はこの辺で終わります。
まだファウストの超序盤で