メフィストを讃えるblog

「青の祓魔師」ネタバレ考察 + α

時の王のファッションチェック

今日は時の王サマエル様のファッションチェックをしてみます。



八候王バールの晩餐会で着ていた服

こちら19巻86話、ルシフェルの晩餐に招かれた時のお召し物です。


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19巻 86話扉絵

こちら、最も格式の高いフォーマル服である燕尾服(テールコート)"ホワイトタイ” と呼ばれる最高級のドレスコードです。


燕尾服に白の蝶ネクタイ、白いベスト。
イカ胸シャツ・・・これはいつもフェレス卿が着ている襟の先がクルンと丸まっているシャツですね。手にはフォーマル手袋とトップハット(シルクハット)


さすがドレスコードにウルサいサマエル様。ものすごく格式の高い服をお召しなのですね。



参考にしたサイト:
モーニングコートと燕尾服(ホワイトタイ)の違いと着こなし | タキシード・燕尾服・フォーマル専門店ノービアノービオのブログ



普段着ている服は?


それでは普段来ているあの服はどうでしょう?




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サマエル様は普段はメフィスト・フェレスを名乗っています。
実はこの服は「ファウストゲーテ)」の登場キャラクター・メフィストフェレスのオマージュからできています。

順に見ていきましょう。



かぼちゃパンツとタイツ

サマエル様お召しのかぼちゃパンツ。これは16世紀から17世紀にかけて流行していたオー・ド・ショースと呼ばれるものです。

ファウストゲーテ)」第1部において悪魔メフィストフェレスは貴公子の服を着て現れます。当時貴公子たちの着ていた服が このかぼちゃパンツ+タイツ なのです。

第2部ではメフィストフェレス宮廷道化師に扮します。サマエル様の服のピエロカラーはそのオマージュでしょう。



当時の芝居では必ずカスペルレと呼ばれる道化役がいて狂言回しをするのが慣わしでした。ゲーテは道化役を廃し、その役目をメフィストフェレスに背負わせました。観客に話しかけ劇の解説をし、上手いことを言って劇を盛り上げ皮肉を言って笑いを取る。

メフィストフェレスはワイズ・フール。そのオマージュとして道化師に扮するのです。



そしてサマエル様もまた青エク世界における狂言回し役。舞台の支配者たる道化師なのです。




t-reversal.hatenablog.com





上着と帽子

トップハット(シルクハット)と紳士服はおそらく オペラ版ファウストの影響です。

オペラ版で最も有名なのはグノー版ファウストゲーテファウスト第一部を恋愛物に編集しなおしたものです。
メフィストフェレスの衣装はその演出や美術で舞台ごとに異なりますがだいたい紳士服を着ていることが多いようです。


www.youtube.com

こちら白い紳士服を着ているのが悪魔メフィストフェレです。演じているのはメフィストフェレ役で有名なブリン・ターフェルさん。


www.youtube.com

こちらはポール・ゲ演じるセクシーなメフィストフェレ。貴公子の服を脱ぎすて黒い紳士服になります。


参考: ファウスト(アラーニャ)|フランスオペラの楽しみ



トップハットに紳士服。おそらく世間のメフィストフェレスのイメージはこちらの方でしょう。


さて、サマエル様もトップハットと紳士服を身につけていますが・・・こちらの方はちょっと見たことないデザインです。
後ろに長い尻尾がありますが、燕尾服にしては前が閉じています。それにロングブーツ。これはどこから来たのでしょう?



しばらく調べてみると、どうやら昔の燕尾服は前が閉じていたそうじゃないですか。現在の燕尾服に残るボタンはその名残だとか。

なるほど、じゃあ歴史を調べてみましょうと Wikipedia の燕尾服の項目を見てみたら・・・


燕尾服 - Wikipedia

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?!

サマエル様と同じ服を着ている人がいるぞ・・・?!



彼の名前は ボー・フランメル。18世紀のファッションリーダーです。
当時、燕尾服はイギリスの乗馬服でした。その着こなしを提案しファッションとして広く流行させたのがこの人です。


燕尾服の前のボタンは閉じています。当時は色は黒とはかぎらず様々な色の燕尾服が着られていたようです。トップハットにロングブーツを合わせています。サマエル様と同じです。

乗馬服・・・ということは履いているブーツは乗馬ブーツですね。ところで、サマエル様の履いている靴に丸い輪っかとベルトが付いているじゃないですか。



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ロングブーツに輪っかとベルト


これ、乗馬ブーツ拍車ベルトです。



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拍車ベルト (写真は日本最大級馬具・乗馬用品マルベリーショップより転載)


拍車ってアレです。馬のお腹をトントンして速度コントロールするやつです。西部劇では靴の後ろにギザギザしたのがついてるじゃないですか。アレが拍車です。

サマエル様の場合はベルトだけで拍車自体はついていないようです。ファッションとして身につけているようですね。(まぁ、馬に乗りませんしね)




それからサマエル様は胸元にスカーフをしているじゃないですか。

あれはアスコット・タイです。



アスコット・タイ - Wikipedia

www.ozie.co.jp



イギリス王室の主催する競馬ロイヤル・アスコットは貴族たちの社交の場。今日でも厳しいドレスコードで知られています。19世紀アスコット競馬場に集まる人々が好んで身につけたためアスコット・タイと呼ばれるようになりました。

サマエル様の場合はアスコット・スカーフをアスコット巻きしているようです。



まとめますとサマエル様の身につけている服は200年前の流行服です。



200年前というとゲーテファウストを書いていた頃です。


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メフィスト・フェレスという名は物質界でここ200年ほど使っている名前



おそらく200年前、サマエル様は「ファウスト」を読んでメフィスト・フェレスの名前を使い始めたのでしょう。その時にあの服を仕立てたのかもしれません。当時最先端の流行で。

昔はオシャレだったのかもしれませんね・・・あの服。



わたしはサマエル様のイメージがずいぶん変わりました。てっきり独自の美学を貫いている方かと思っていたのですが・・・その時代の最先端のファッションを楽しんでいるオシャレさんだったのですね。今はちょっと古くなっちゃっただけで。



9年の年月は人間にとっては大きなものです。私にとってはクシャミをする程度にしか感じませんが
(23巻p18)


サマエル様にとっては16世紀も19世紀もついこの間なのかもしれません。

そういえば八郎なんかも相当古い服を着ていました。悪魔の皆さんにとっては人間のファッションの流行を追うのは大変なのかもしれませんね。




そして130話において新しく登場した八侯王バールのおひとりはこれまた古い服をお召しです。このあたりはまた単行本がでたところで改めてお話ししたいところです。