メフィストを讃えるblog

「青の祓魔師」ネタバレ考察 + α

【ゲーテ】メフィストフェレスのモデルになった人物

今日はメフィストフェレスのモデルとなった人物の話です。

青エクのメフィストではありません。ゲーテの方です。

ファウスト」はドイツの伝説を元ネタにした多数の創作物の一つ。ゲーテファウストが現れるまではメフィストフェレスのイメージは普通の悪魔でした。

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メフィストフェレスのイメージ  出典:Wikipedia



頭が良く博識、
高尚な言い回しで嫌味をいい、道化師のような立ち振る舞いで人をからかう————



メフィストフェレスがこのようなイメージになったのはゲーテの「ファウスト」以降です。


ゲーテメフィストフェレス。そのモデルとなったのは

ヨハン・ハインリヒ・メルク

実在の人物です。

彼は明敏博識、多面的な教養を具え、芸術に関し的確で鋭い判断を示し、当時の文学運動に大きな刺激を及ぼした。ゲーテの天才を深く理解し「ゲッツ」の出版を勧めた。(中略)
彼はまたメフィストフェレスのモデルとも言われる。

出典:
ゲーテ人物ファイル/東京ゲーテ記念館



ちょうどメルクと出会った頃からゲーテは「ファウスト」の執筆をはじめたようですね。



・・・ん?
これサマエル様じゃない??

サマエル様が「ファウスト」の続きを書くようにと愚痴愚痴うるさいのなんか想像つくぞ・・・
ヨハン・ハインリヒ・メルクってサマエル様の偽名の一つだったりしません・・・?

(注 原作にない設定です 2次創作とかにどうぞ(?) )



詩と真実を読んでみた

こうなってくるとメルクさんが気になる。あの性格の人が実在してたってどういうことなんだ??(それホントに人間?

ゲーテ自伝「詩と真実」にメルクについての記述があるそうなので一部かいつまんで読んでみました。


(読む機会がなかなかなさそうな本なのでまとめておきます。以下は興味のある人のための備忘録とでも思ってください。だいぶ長いです)


詩と真実

ゲーテの自伝です。作品を書いた裏話と当時の文豪達の素顔を紹介したものです。当時のファンブックですかね・・・

ゲーテの作品及び当時の文豪を知っていることを前提に書かれているのでとても読みにくいです。


メルクの出番はそう多くありません。700ページほどの本編に対し、登場箇所は10ページもないかもしれません。
とはいえ、重要な人物でありまた キャラが濃い のでよく目立ちます


メルクってこんな人

(だれかと服が似ているのは偶然なんですか・・・?)
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とてつもなく頭が良くて、芸術を愛する、でも性格が悪・・・いえ、なんでもありません

道化師のような振る舞いと高尚な言い回しで嫌味を言うようです


批評家/美術収集家/動物学者/古生物学者/文学者/軍事顧問官・・・えっとすみません、いくつ肩書きあるんですかこの人。

それからゲーテ曰くあらゆる時代の人類の歴史に精通しているそうです。 やっぱりサマエル様じゃないですか


本当にメフィストフェレスと呼ばれている

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ゲーテメフィストフェレスとあだ名をつけられてしまった ヨハンさん

ゲーテはメルクをメフィストフェレスと呼ぶ


「メルクはメフィストフェレスだから・・・」「メフィストフェレスのメルクが・・・」「メルクがメフィストフェレスを始めた」


文中にメルクが登場するたびに執念深くメフィストフェレスと言い直しています。なんだこれは。

メフィストフェレスさんのことメルクって呼ぶのやめなよ



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メルクをメフィストフェレスと呼ぶゲーテ  楽しそうです

どこかで見たことあるキャラクター

メルクさん、普段は紳士なのですが すぐに 道化師悪役 のような振る舞いを始めるそうです。


ゲーテ曰くメフィストフェレス



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青エクファンならピンとくる


あーーーアレですね?わかるわかる。

そのような方、我々よく存じ上げております




残念ながらメルクさんの具体的なセリフはほとんど書いてありませんでした
(オリジナルの皮肉が聞きたかった・・・)

でもメフィストフェレスを始めた」の一文でどんな調子かなんとなくわかるのがすごい。


キャラが濃い・・・

似ている・・・?

たしかに似ているかもしれない・・・ ゲーテメフィストよりむしろ 青エクのサマエル様の方に 
ゲーテメフィストはこんなに紳士ではない)



あえてサマエル様と違うところを挙げれば

メルクは バカが大嫌い というところです

ここでいう バカ はだいぶ広い意味合いで使われていて 粗暴な人ウェイ系DQNといった系統が含まれるようです

この特徴のおかげでメルクはサマエル様よりだいぶ神経質に見えます



ゲーテのところに遊びにくるたびにピコピコ騒いでいる印象です

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ピコピコ


学者の家系でエリートに囲まれて育ったメルクと
裕福とはいえ庶民のゲーテでは生活が合わないのかもしれない




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ギーセンに滞在して欲しかったけれど 飲み屋でウェーイしている学生達にメルクは耐えられなかった

ゲーテとメルク

ゲーテさん、思ったより子供っぽい人です。思いつきで行動するタイプ。作風からてっきり気難しい人かと思ってました。



一方メルクはだいぶ厄介そうな人です。遠くから見ている分には楽しいけれど自分が絡まれるのはたまったものじゃない。

そんなメルクに対するゲーテの独白

私は彼が自分に対してだけは傷つけないだろうという予感と確信を持っていたので、よりいっそう彼とともに生活し彼の優れた特質によく触れてみようと思ったのである

ゲーテ全集10 河原忠彦・山崎章甫訳 より引用)


ゲーテすごいな・・・

でも確かにメルクはゲーテに対しては優しいしよく世話を焼いてくれるのです。




2人の関係はファウストメフィストフェレスに似ています。

メフィストファウストを研究室から連れ出し真理に導きました。

メルクもまた、渋るゲーテを説き伏せ作品を自費出版し、文学の世界に強引に連れ出し導いていきました。



皮肉屋で悪ぶっているけど世話焼きの悪魔と、理想家で惚れっぽくて我が道を行く主人公。


ファウスト」って実はゲーテとメルクの物語だったのですね


ゲーテとメルクの関係

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保護者・・・ですか?



メルクさん過保護すぎるだろ、おかーさんか




そう思っていたのですが最後のくだりまで読むと

「お母さんもね、メルクさんと同じ考えよ・・・」

となりました


ファウスト第2部」のメフィストが保護者感あるのはこのせいなのか・・・

現実とフィクションと

ゲーテは自身の体験を物語にするタイプの作家なんですね。どれも元ネタのエピソードがあってびっくりします。

全部実話じゃないですか・・・


メルクはゲーテの本質を 「現実をフィクションにする者」 だといいます。

そして「他の連中は詩を現実化しようと努める。そんなことをしても意味がないというのに」と嘲笑するのです。


ゲーテが一生の間何度も繰り返し思い出したという2人のやりとり。本のタイトル「詩と真実」です。


メルクは創作物を愛しながらもそこに描かれる愛や理想と言った類、創作物の持つ力を信じていないようにみえます。

なるほど、メフィストフェレス・・・



メフィストフェレスの末裔

メルクさんはとても頭が良くて、そしてお金儲けが得意でした。その子孫達はどうなったかというと・・・


製薬会社メルク(MSD)、商人銀行を設立。ハンブルクの支配階級となり男爵の称号が授けられました。

現在メルク家はドイツの実業家・銀行家一族として知られているそうです

(あ、メルクマニュアルって聞いたことある・・・)


さすがフェレス卿はセレブですね・・・ 
ほんとにこんな感じだったのですか・・・


出典:

余談

Pixivで検索してみたら「詩と真実」の二次創作小説があった・・さすが・・・!
うちのブログ記事よりそちらを読んだ方が雰囲気がわかると思います


Q. なんで原作ではなく二次創作を勧めるのですか?

A.「詩と真実」は長い上に読みにくいから勧め辛いのです・・



余談2:「ファウスト」を読み直して

ファウスト」を最初に読んだ時私は面食らいました。

最初に謎のポエム「献ぐる言葉」があり、次の章では「道化師」「詩人」「座長」の三人が創作談義をしています。

解説によればインド戯曲「シャクンタラー姫」の形式に倣ったものだそうですが、それにしても意味がわかりません。

なぜ創作談義なのでしょう?本編と関係ないように見えます。



「詩と真実」を読み創作の背景を知ったとき、そこに込められた意味がわかるようになりました。

ファウスト」はゲーテが生涯をかけて書き続けた作品ですが、メルクが亡くなってから7年の断筆期間があります。
執筆再開時に例の冒頭部を書き足したそうです。


語るのは野暮な気がするのでさらっとまとめます

「献ぐる言葉」

いなくなってしまった者への悲しみと「現実を詩にする者」としての創作の決意が語られます

「舞台の前曲」

「詩人」は創作の素晴らしさを語り、「道化師」は茶化して言います。


「ではその創作の力とやらを見せてみるといい、お前の経験に色をつければ物語の出来上がりだ」


これはゲーテとメルクのやりとりの再現です。

2人の議論は「座長」により打ち切られます


座長「言葉はもうたくさん、そろそろお手並み拝見といきましょう」


こうして戯曲ファウストの幕が上がるのです





参考・出典

de.wikipedia.org